• 下枝宣史

マスクについて(3)

 5月の連休が明け、徐々に使い捨てマスクが手に入りやすくなってまいりました。とは言え平時に比べればまだまだ高価で、毎日のように使い捨てるのは負担が大きいですね。

 「サージカルマスク」と呼ばれるように、不織布製の使い捨てマスクは本来、外科的処置を行う医師が装着するためのものです。以前の記事にも書きました通り、これは外科医が自分の身を守るためのものではなく、外科的処置を受ける患者さんを術後感染症から守るためのものです。

 外科的処置というのは、皮膚や粘膜を切り開いたり針を刺したりして行うものです。皮膚や粘膜には、外界の細菌やウイルスを体内に侵入させないための防護壁としての役割があります。それを切り開くわけですから、そこから細菌やウイルスがいとも易々と体内に侵入する通り道を作っているようなものです。ここで、外科医がスタッフへ言葉で指示をする際に飛散する唾液が切開した傷口に入ると、誰の口の中にも共生している細菌が患者さんの体内に侵入してしまう恐れがあります。滴る汗や、抜け毛も危険ですので、外科スタッフはマスクを始め、キャップやガウン、手袋を厳重に装備し、患者さんを感染から守りつつ処置を行うわけです。

 ではなぜ、使い捨てが一般的なのか。処置を受ける患者さんの中には、すでに感染性の病原体を保有している方もおられます。外科的処置の際の出血や体液が、外科医やスタッフの装備に付着します。もしもそのまま、続けて次の患者さんの処置を行なってしまうと、前の患者さんから次の患者さんへの感染を起こしてしまう恐れがあります。毎日、数十〜数百件にのぼる数の外科的処置を行うような医療施設を考えたとき、それだけの数の装備品を毎回消毒し直して使い回すことは、とても効率が悪いです。それが、ここ十数年間に使い捨てマスクが広まってきた背景の理由です。  さて、まだまだ安くなっていない不織布製使い捨てマスクは当面見送って、布製マスクを繰り返し再利用しようと思われる方は少なくないでしょう。外科医でない方々が、使い捨てにこだわる必要はありません。最近ではよく知られてきたように、お互いを感染から守り合うための咳・くしゃみエチケットを目的とするマスクであれば、布製の再利用で充分に意味があります。

 ただし、布製の再利用マスクを安全に使い続けるためには、大切な注意点があります。マスクには、細菌が繁殖しやすいのです。マスクの内側には、私たちの皮膚や口の粘膜に共生している細菌が常に付着します。一日中、ヒトが吐く息による暖かさと湿り気を与え続けられる細菌は、布地の網目の中で猛烈に増殖することがあり得ます。細菌は、少ない数であれば私たちと共生できても、大量に増殖すると病原となることもあるのです。そこで、布マスクの清潔を充分に保つためには毎日3〜4枚を繰り返し洗濯消毒して、数時間ごとに取り替えるほどの手間をかけることが、最低限でも必要だと考えます。 ​ 5年ほど前の研究論文で、布製マスクは感染を防ぐ力が最も弱かった、むしろより感染しやすくなる恐れも考えられるような結果が出ています。 A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers

 現実には、難しいですね。だからこそ使い捨てマスクが主流になっていたわけですが、こういう状況ですからやむを得ません、他者を守るためのマスクで自分が具合悪くならないように注意を払いつつ、こまめな手洗い・適切な食事・十分な睡眠をとること、この3つだけでもウイルス感染症にはかかりにくくなります。今後も油断せず、体調管理をお心がけください。

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